「ランダム化二重盲検クロスオーバー試験」 って何?
(前回までのあらすじ)
東田先生の研究によると、かなり重篤な認知症状態になっているマウスでも、“ジオスゲニン”を飲むと記憶能力はほぼ正常に回復するという、ちょっと信じられないような結果が出たということです。これは2012年に下記関連論文で発表されました。
生徒
「先生!素晴らしいですね。今や全世界で5000万人ともいわれる認知症に悩む現代社会の光明に違いありません!
ところで、それはヒトに対しても効果が期待できるのでしょうか?」
東田先生
「そうなの。そこが一番知りたいところ。ただ、哺乳類の神経細胞の構造はとても似ているので、同じ効果は十分期待できます。」
生徒
「なるほど。いいですね。それで結局のところどうなんですか?」
東田先生
「結論から言うと、“ジオスゲニン”の効果は人でも示されました。」
生徒
「やったー!ブラボー!詳しく教えてください。」
東田先生
「ええ。順を追って説明するわね。今回の臨床試験は健常な人を対象に行いました。“ジオスゲニン”を高濃度含むヤマイモエキスを用いてランダム化二重盲検クロスオーバー試験です。
この、ランダム化二重盲検クロスオーバー試験というのが一つポイントよ。今日はまずこの試験方法について説明させてね。」
生徒
「ランダム化二重盲検クロスオーバー試験?」
東田先生
「そう。ランダム化二重盲検クロスオーバー試験。
こんな風に試験するの。
まず、被験者を2つのグループに分けます。被験者は自分がどのグループかということは知らされません。Aグループはまず“ジオスゲニン”を3ケ月間飲みます。その後6週間はお休み期間。飲まない期間を経て次の3ケ月間プラセボ(偽薬)を飲みます。Bグループはその逆はじめの3ケ月がプラセボ(偽薬)、同様に6週間空けて“ジオスゲニン”を3ケ月。」
生徒
「被験者は、“ジオスゲニン”を飲んで その後プラセボ(偽薬)を飲む(またはその逆)からクロスオーバーってわけですね?
ところで、プラセボ(偽薬)ってなんですか?」
東田先生
「見た目はそっくりに作っているけど、中身は害のない成分よ。」
生徒
「なるほど。被験者は、ずっと“ジオスゲニン”を飲んでるつもりかもしれないですね。ところで、試験を行なっている先生方は被験者が今何を飲んでいるかは、わかっているのでしょう?」
東田先生
「それが、検査する医師や、私(東田)も試験が終了するまで誰がどれを飲んでいるのか知らされないの。それは、医師が被験者Aさんは今“ジオスゲニン”を飲んでいることを知っていることで、接し方のなかで成績がよくなるはずとか、そういう無意識の情報を被験者に与えて試験結果が左右されることを防ぐためなの。」
生徒
「うわあ。ずいぶん厳重に管理して行なっているということですね。その分この試験方法は信頼性が高いということだ。」
東田先生
「その通り。期待通りの結果が出るかどうか検査期間中は、私もドキドキだったわ。
そして、結果発表。今日はちょっと長くなっちゃったから、続きはまた明日ね」
生徒
「あ、先生。ずるいなあ・・・。」
関連論文
Tohda C, Urano T, Umezaki M, Nemere I, Kuboyama T.
Diosgenin is an exogenous activator of 1,25D3-MARRS/Pdia3/ERp57 and improves Alzheimer’s disease pathologies in 5XFAD mice.
東田 千尋(とうだ ちひろ) 教授
富山大学和漢医薬学総合研究所神経機能学領域 薬学博士
1994年北海道大学大学院薬学研究科博士後期課程薬学専攻修了。1995年より富山医科薬科大学和漢薬研究所助手。米国NIH留学を経て、2010年より富山大学和漢医薬学総合研究所准教授として研究室を主宰。2017年より現職。
和漢薬や漢方薬の秘めたる力をテーマに20年以上にわたり、認知症の予防、改善につながる研究を行う。
2017年 発明名称「アルツハイマー病の治療剤を含む、神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の治療剤」、発明名称「神経回路網の再構築・賦活剤」で特許取得している。
受賞歴として, 平成18年度日本神経化学会最優秀奨励賞, 平成21年武見奨励賞, 平成26年度和漢医薬学会学術貢献賞, 平成28年度日本薬学会学術振興賞等がある。