富山大学 東田千尋教授の新たな論文が発表されました。
「ジオスゲニン高濃度ヤマイモエキスは、軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の認知機能を改善させる」という内容です。
東田教授は、2017年に健常者を対象にジオスゲニンの臨床試験を行い、認知機能を改善させることを発表しました。今回は軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の方を対象に臨床試験を行い、やはり認知機能を改善させることを確認したことを発表しています。
ぜひ、ご一読ください。
ジオスゲニン高濃度ヤマイモエキスは、軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の認知機能を改善させる
■ ポイント
ジオスゲニンを高濃度含有するヤマイモエキスを 24 週間服用すると、軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の被験者において認知機能等の改善が認められた。
■ 概要
軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の被験者を対象に、ジオスゲニンを高濃度含有するヤマイモエキスの効果を偽薬(プラセボ)群と比較するランダム化二重盲検試験を実施したところ、24 週間のエキス投与によって認知機能等の改善が認められました。
本研究成果は、「Phytomedicine Plus」に 2024 年 8 月 11 日(日)に掲載されました。
■研究の背景
富山大学和漢医薬学総合研究所 東田千尋教授の研究室では、かねてより、ヤマノイモ、ナガイモ(漢方では生薬の“サンヤク”として使われている)の成分として知られているジオスゲニンの認知症に対する効果を研究し、ジオスゲニンによってアルツハイマー病モデルマウスの記憶障害が回復されることと、このマウスの脳内で萎縮した軸索がジオスゲニンによって正しく再伸展し回路が修復されるメカニズムを明らかにしてきました。またジオスゲニンを高濃度含有するヤマイモエキスの投与が、若いマウスの記憶能力や、健常人の認知機能をさらに亢進する作用を見出してきました。
■研究の内容・成果
今回、富山大学和漢医薬学総合研究所・神経機能学領域の稲田祐奈助教、東田千尋教授、富山大学医学部神経精神医学講座の笹林大樹講師、鈴木道雄(前)教授の研究グループは、軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の被験者を対象に、ジオスゲニンを高濃度含有するヤマイモエキスの効果を偽薬(プラセボ)群と比較する、ランダム化二重盲検試験を特定臨床研究として実施しました。
解析対象となった被験者は 38 名であり、平均年齢は 74.6 歳でした。ランダムに 2群に分け、ジオスゲニンを高濃度含むヤマイモエキス試験薬、または偽薬のいずれかを24 週間投与しました。投与前、投与 12 週間後、投与 24 週間後において、認知機能評価と、血液中のバイオマーカーの定量評価を行い、群間比較解析しました。
主要評価項目とした認知機能テスト ADAS-Cog※1 での評価結果では、その総得点、ジオスゲニン高濃度ヤマイモエキスは軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の認知機能を改善させるPraxis 領域(日常生活に必要な行為の理解)および記憶領域において、改善/維持された人数と悪化した人数を比較したところ、ヤマイモエキス投与群では「改善/維持した人数」が「悪化した人数」を大きく上回りましたが、偽薬投与群では「改善/維持した人数」と「悪化した人数」が同程度でした。
ADAS-Cog の、Praxis スコアは、24 週間のヤマイモエキス投与によって程度は大きくはないものの有意に改善しました。また、投与後 12 週から 24 週間目にかけて、脳中の神経細胞の軸索が維持されていることを示す血漿 NfL※2の値が、ヤマイモエキス投与群で改善しました。病態の重症度別にみると、軽度認知障害の被験者における、ADAS-Cog の総合点と記憶領域、血漿 NfL の値が改善しました。
ヤマイモエキスを投与された被験者のうち、認知機能試験 MMSE-J の点数が改善した被験者では、脳内のアミロイドβ※3 の低下を示唆する血漿 Aβ42/40 の増加が見られました。また、脳内の軸索維持を示唆する血漿 NfL の値が改善していた被験者では、認知機能が改善していることも示されました。安全性の評価では、ジオスゲニン高濃度ヤマイモエキスの投与に関連する有害事象は見られませんでした。
以上の結果より、ジオスゲニン高濃度ヤマイモエキスは、軽度認知障害および軽度アルツハイマー病に対し、認知機能改善効果と脳内の軸索を維持する作用を有することが示されました。
■今後の展開
今後は、特に軽度認知障害の被験者を対象にしたより規模の大きな臨床試験を実施するなどにより、ジオスゲニンを高濃度含有するヤマイモエキスの有効性をさらに検討し、医薬
品開発の実現に向けて研究を進めていきます。
【用語解説】
※1)ADAS-Cog
The Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognition の略称。薬物の治療効果を判定する場合に用いられる代表的な認知機能検査の一つである。単語再生、口頭言語能力、言語の聴覚的理解、自発話における喚語困難、口頭命令に従う、手指及び物品呼称、構成行為、観念運動、見当識、単語再認、テスト教示の再生能力の 11 項目によって認知機能を評価する。
※2)NfL
Neurofilament L(ニューロフィラメント軽鎖)の略称。の略称。NfL は中間径フィラメント(intermediate filaments)に分類されるタンパク質で、神経細胞の軸索内に存在し、神経細胞の形状を維持し神経信号の伝達をサポートする。脳内で神経細胞の軸索が変性(壊れる)と、脳内の NfL 濃度は減少し、血漿中や脳脊髄液中では NfL濃度が増加する。よって血漿中 NfL を測定することにより軸索変性を間接的に評価できる。
※3)アミロイドβ
アルツハイマー病の原因物質であり、人の場合では認知機能障害が発症する 20 年近く前から脳内での蓄積が始まる。40 あるいは 40 アミノ酸からなるペプチドであるが、オリゴマーや凝集体となり神経細胞に障害を与える。アルツハイマー病が進行すると、脳の中でのアミロイドβ42/アミロイドβ40 の比が増加し、血漿中では逆に減少する。よって、血漿中のアミロイドβ42/アミロイドβ40 比を測定することにより、脳内のアミロイドβ量の変化を間接的に推測できる。
【論文詳細】
論文名:
Diosgenin-rich Yam (rhizome of Dioscorea batatas) extract ameliorates cognitive functions and plasma biomarkers for mild cognitive impairment and mild Alzheimer’s disease: A randomized controlled trial
著者:
Yuna Inada1,
Chihiro Tohda1,
Daiki Sasabayashi2,3,
Michio Suzuki2,3
所属:
1) 富山大学・和漢医薬学総合研究所・神経機能学領域
2) 富山大学・医学部・神経精神医学講座
3) 富山大学・アイドリング脳科学研究センター
責任著者:東田千尋
掲載誌:
2024 年 8 月 11 日(日)オンライン公開
Phytomedicine Plus (2024) Volume 4, Issue 3, 100613.
DOI:
https://doi.org/10.1016/j.phyplu.2024.100613
富山大学総務部総務課広報・基金室 発表資料より転載