認知症に期待の光明!?
脳のしくみについて富山大学東田千尋(とうだちひろ)教授がわかりやすく教えてくださいました。(続き)
生徒
「え?和漢薬に認知症を治す可能性があるということですか?詳しく教えてください!」
東田先生
「はいはい。焦らないで。どのような方にも効果があるのかどうかはまだまだ研究が進んでいませんが、傷んでしまった神経回路が再びつなげる可能性が和漢薬にあるということは確かです。イメージでいうと、停電で何も見えなかった部屋に電気が通ってまたパッと明るく照らされるような感じです。」
生徒
「わかりました。その期待できる和漢薬って何ですか?」
東田先生
「前回、和漢薬のちから(その4)で滋養強壮を効能として漢方で用いられる山薬(ヤマノイモまたはナガイモの根茎)の成分として紹介しました“ジオスゲニン”です。“ジオスゲニン”には、神経線維を健全に維持し、傷んでいる場合には再生して神経網をつなげる力があることがわかったのです。」
生徒
「“ジオスゲニン”?聞いたことがありません。なんですか?それは。」
東田先生
「“ジオスゲニン”英語ではDiosgeninと表します。 Diosはギリシャ語のディーオス「神ゼウスのような」、「卓越している」という意味があります。geninは糖と結合した成分から糖を外した成分につけられる接尾語のようなものです。」
生徒
「へぇー。神ゼウスの息のかかったありがたい成分ということですね!」
東田先生
「うふふ。そうかもしれないですね。
研究では、アルツハイマー病モデルマウスの脳の中の、記憶に関わる神経回路を見てみました。健常なマウスでは、神経細胞の突起である軸索が海馬から前頭皮質に向かって伸びています。ところがアルツハイマー病モデルマウスの軸索は、縮んでしまってうまくつながらなくなっていることがわかりました。」
生徒
「アルツハイマー病のマウスは軸索が縮んでいるので、脳の中で情報の伝達がうまくいかずアルツハイマー病の症状が出ているのですよね。」
東田先生
「はい。その通り。このアルツハイマー病マウスに“ジオスゲニン”を2週間飲ませました。すると、海馬から前頭皮質に向かって軸索が伸び、記憶能力も正常に戻りました(画像:アルツハイマー病モデルマウスの脳内においてジオスゲニン投与により軸索が伸長する(イメージ))」
生徒
「え?アルツハイマー病マウスの記憶能力が正常に戻ったって本当ですか?信じられません。」
東田先生
「私もこの結果には、正直驚きました。その後さまざまな状況で検証を続けましたが、確かに軸索が伸び、記憶能力が正常に戻ることが確認できたのです。アルツハイマー病モデルマウスは記憶障害の程度がどんどん悪化しますが、かなり重篤な認知症状態になっているマウスでも、“ジオスゲニン”を飲むと記憶能力はほぼ正常に回復します。また、“ジオスゲニン”によって、海馬と前頭皮質との間の電気信号のやり取りが活性化することも証明されています。(関連論文参照)」
生徒
「先生!素晴らしいですね。
今や全世界で5000万人ともいわれる認知症に悩む現代社会の光明に違いありません!
ところで、それはヒトに対しても効果が期待できるのでしょうか?」
次回に続く。
関連論文
Tohda C, Urano T, Umezaki M, Nemere I, Kuboyama T.
Diosgenin is an exogenous activator of 1,25D3-MARRS/Pdia3/ERp57 and improves Alzheimer’s disease pathologies in 5XFAD mice.
東田 千尋(とうだ ちひろ) 教授
富山大学和漢医薬学総合研究所神経機能学領域 薬学博士
1994年北海道大学大学院薬学研究科博士後期課程薬学専攻修了。1995年より富山医科薬科大学和漢薬研究所助手。米国NIH留学を経て、2010年より富山大学和漢医薬学総合研究所准教授として研究室を主宰。2017年より現職。
和漢薬や漢方薬の秘めたる力をテーマに20年以上にわたり、認知症の予防、改善につながる研究を行う。
2017年 発明名称「アルツハイマー病の治療剤を含む、神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の治療剤」、発明名称「神経回路網の再構築・賦活剤」で特許取得している。
受賞歴として, 平成18年度日本神経化学会最優秀奨励賞, 平成21年武見奨励賞, 平成26年度和漢医薬学会学術貢献賞, 平成28年度日本薬学会学術振興賞等がある。