「ジオスゲニン臨床試験の結果は!?」
生徒
「やっと臨床試験結果の発表ですね!」
東田先生
「はい。お待たせしました。
ヤマイモエキスを3ヶ月間飲むことによって認知機能が向上する結果が示されました。(図)特に40代以降で高齢になるほど、成績の上がり方もより顕著に現れました。若いうちはそもそも認知機能の衰えはそれほど感じないので、成績も伸びにくいけど、認知機能の衰えを実感する40代以降の方には大いに期待できるということがこの臨床試験で証明されたというわけですね。認知機能テストはアーバンス(RBANS)1)を使用しています。これについてもいつかゆっくり解説するわね。」
Nutrients,(2017)9(10),1160より改編
生徒
「やったー。”ジオスゲニン”で認知機能が向上したのですね。
アーバンス(RBANS)メモっておきます。
ところで認知機能って一口にいいますけど何か分類とかあるんですか?」
東田先生
「いい質問ね!
アーバンス(RBANS)では認知機能は5領域に分けています。
1.即時記憶(短期記憶)
2.遅延記憶(長期記憶)
3.視空間構成
4.注意力
5.言語流暢性
今回のヤマイモエキスの臨床試験では、5領域の全般にわたって成績向上の有意差が認められました。これは特筆すべき重要なことなのです。
余談だけど、この科学的データに基づき、ジオスゲニン・ゴールド2)が機能性表示食品3)として消費者庁に受理されました。例えば記憶力維持をうたった別の機能性表示食品があるけど、届出表示には『認知機能の一部である記憶力を維持する機能がある』と表記されています。ジオスゲニン・ゴールドは『ジオスゲニンには~認知機能を維持する機能があります。』という表記なの。(太字筆者)この表記を得るための苦労話がこれはまた、涙、涙の物語なのよ。それもいつかお話しするわね。」
生徒
「ああ、ぜひ、お願いします。ちょっと見では全然気がつきませんでした。なるほどねー。
そして、その認知機能5領域すべてにわたって成績向上することが科学的に証明されたというのは、何物にも代えがたいですね。恐るべし”ジオスゲニン”!それなら、どんどんヤマイモ食べるぞ~」
東田先生
「ちょっと待って。残念ながら市場に出回っているヤマイモには、実はジオスゲニンはほとんど含まれていないの。また、そのままの形で食べても脳に届かない。これも研究中にわかったことなのだけど、ヤマイモエキスを飲んだ時にジオスゲニンが脳の中に運ばれなければ、その効き目は発揮されないのです。口から飲むということは、喉を通って、胃、腸から血液中に吸収される。その成分が脳に届くというのは、ちょっと考えても難しそうでしょう?」
生徒
「そういえば、そうですね。まさか、脳に直接”ジオスゲニン”を注射するわけにもいかないし・・・。どうやって脳に届かせているのですか?」
東田先生
「そう。これについては様々な物質でテストしたわ。まず、ジオスゲニンは水と一緒に飲んでも脳に届かず効果がないということがわかりました。実は、実際に売られているジオスゲニンサプリがあるのだけど、ジオスゲニン粉末を固めてタブレット状にしているものなのね。これは、水で飲むわよね。でも、水と一緒に飲んでも脳に届かないのだから、これは残念ながら意味がないの。マウスに飲ませて、ジオスゲニン成分が脳に届いていないことも確認しました。」
生徒
「せっかく”ジオスゲニン”を飲んでいるのに、届いていないなんて残念ですね!実際に実験して確認しているのですね。」
東田先生
「ええ。そうなの。
では、どうすれば、”ジオスゲニン”成分が脳に届くのか?これには、ある特殊な油脂で製剤化することで実現しました。この製法についても論文発表し、特許を取得しています。」
生徒
「さすが!東田先生。」
東田先生
「うふふ。ありがとう。
和漢薬由来の化合物、しかも野菜としても身近なヤマノイモ、ナガイモの成分として知られている”ジオスゲニン”に、このように神経細胞をつなぐ力があるということは、意外かもしれませんね。脳の健康長寿の心強い味方として、さらに研究を進めています。」
生徒
「期待してます。私もお手伝いします!」
1)アーバンス(RBANS)(Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status) Randolph (1998)により開発され、全米で標準化された神経心理学検査のひとつで、簡便かつ詳細な検査として医療現場で普及してきています。今回の臨床試験では日本語版を使用しています。
2)ジオスゲニン・ゴールド レジリオ社の販売するジオスゲニンサプリメント。
東田先生の研究を商品化。
3)機能性表示食品 事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示するものとして、消費者庁長官に届出されたものです。特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありませんが、表示にあたっては科学的根拠が認められないと受理されません。
関連論文
Tohda C, Yang X, Matsui M, Inada Y, Kadomoto E, Nakada S, Watari H, Shibahara N.
Diosgenin-Rich Yam Extract Enhances Cognitive Function: A Placebo-Controlled, Randomized, Double-Blind, Crossover Study of Healthy Adults.
Nutrients, (2017) 9(10), 1160. doi:10.3390/nu9101160
Tohda C, Lee Y-A, Goto Y, Nemere I.
Diosgenin-induced cognitive enhancement in normal mice is mediated by 1,25D3-MARRS.
Scientific Reports, (2013) Dec 2;3:3395. doi: 10.1038/srep03395.
東田 千尋(とうだ ちひろ) 教授
富山大学和漢医薬学総合研究所神経機能学領域 薬学博士
1994年北海道大学大学院薬学研究科博士後期課程薬学専攻修了。1995年より富山医科薬科大学和漢薬研究所助手。米国NIH留学を経て、2010年より富山大学和漢医薬学総合研究所准教授として研究室を主宰。2017年より現職。
和漢薬や漢方薬の秘めたる力をテーマに20年以上にわたり、認知症の予防、改善につながる研究を行う。
2017年 発明名称「アルツハイマー病の治療剤を含む、神経細胞の軸索の機能不全が関与する疾患の治療剤」、発明名称「神経回路網の再構築・賦活剤」で特許取得している。
受賞歴として, 平成18年度日本神経化学会最優秀奨励賞, 平成21年武見奨励賞, 平成26年度和漢医薬学会学術貢献賞, 平成28年度日本薬学会学術振興賞等がある。